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お題「日差し」

 昼休み、机の弁当を片付けようとしたら廊下から声をかけられた。
 背の高い、眉のはっきりしたいい男。
 カーテンが風を含んで膨らみ、裾が大きく揺れた。
 教室にいる女子が色めき立つのがわかる。
 はっきりと言葉で聞こえなくても、空気が変わる。
 この男、それに気付いていないふりが上手いのか。本当に気付いていないのか。

「圭太は? さっき現国の教科書借りてたから。次要るんだろ」

 喋るセンテンスが短い。最初は無愛想なのかと思ったけど、慣れたら不器用なだけだとわかった。今では気にならない。
 「ああ」と、いい加減に返事みたいなものをして教室を見回す。
 この男よりさらにでかい、赤い頭の柔和そうな男はいなかった。

「ケータは……どっか行ったみたい。たまにあるのよ。ふらっと」
「まじか。困ったな。いや、困るのはあいつか」
「私、預かろうか。渡しとくから」
「悪い。助かる」

 浅木は短く礼を言うと行ってしまった。教室に戻るんだろう。
 受け取った教科書をケータの席に置いた。
 なんとなく話がしたくなって、彼を探すことに決めた。
 あいつの好きそうな場所は見当がつく。
 他の場所より暖かいところ、涼しいところ、風のあるところ、陰のあるところ、日の当たるところ――つまり、他よりちょっと気持ちのいいところだ。

 今日は私の勘もなかなか冴えていて、最初に当たってみた中庭のベンチで発見できた。
 木陰に置いてあるベンチに、仰向けに転がっていた。
 膝から先を地面に投げ出している。寝辛そうだ。

「ケータ」

 頭側に空いていたスペースに腰を下ろした。

「お、茜もお昼寝?」
「こんな狭いところで?」
「俺の上に」
「馬鹿言わないの」

 おでこを平手で軽く叩いた。
 汗で湿っているせいか、思ったより音が響いた。

「あ、じゃあ俺に会いに来たんでしょ」

 そのとおりだけど肯定すると負けた気になりそうで溜息をついておいた。

「浅木が探してたよ」
「教科書返しに?」

 と、ケータは自分の額を叩いた私の手をとって瞼に乗せた。
 木陰とはいえ、ちょうど木洩れ日があたって眩しいのかもしれない。
 このままでいてやることにした。

「預かっといた。机に置いたから」
「わざわざ探してくれるなんて隼人は律儀な男だなぁ」
「その律儀な男を待たずにプラプラしてるのは誰かしらね」

 「俺でーす」と、ケータは私の手で目隠しをしたまま、手を伸ばして私の顔を探る。

「ここはさぁ、涼しくて日が当たるけど、陰もあるし風もあって静かでいい感じなんだよね」
「そうね」

 大人しく頬を触られてやる。
 赤い髪に木洩れ日がちらちら反射してきれいだった。

「その上、今日は茜付きなんだから言うことないよね」
「あんたねぇ――」

 眼鏡が取られた。

「やだ。指紋つけたわね」
「ごめーん」
「ちっとも悪いと思ってないでしょ」

 思わずケータの目に乗せた手をどけた。

「あっ、まぶし! 目が! 目が!」

 ケータが両手で目を覆って体をよじるとベンチが揺れた。

「ちょっと、大げさよ」
「じゃあもっと俺に優しくして」
「いつも優しいでしょ」
「じゃあなんでたまに君の視線から南極を感じるの」
「気のせいよ」

 素直すぎるくらい愛情表現を求めてくるケータが眩しいような気がした。
 このままじゃキリがないし、何より主導権を持っていかれるのは不本意だ。
 眼鏡を取り返してかけ直した。

「さ、帰りましょ。休憩終わるよ」

 「ほら、寝てないで」と、先に立ち上がって手を引いた。
 動く気配がない。

「キスしてくれたら起きる」

 ここにきて駄々をこねるのか。

「いちいち冗談キツイのよ」
「冗談じゃないもん」
「でかい男にそんな可愛こぶったこと言われてもねえ……」
「いいじゃん。誰かいるわけでもなし」

 それは本当だった。
 あんまりいじけられても何だし、私も悪い気はしなかったけど、やっぱり言いなりになるのは癪だったのでわざと聞こえるように舌打ちをした。

「あ、『チッ』だなんてお行儀悪いんだ」
「あんたちょっと黙りなさいよ」

 身をかがめた。ケータを見下ろすことは少ない。

「なんか茜って俺には厳し――」

 たっぷり、息が続かなくなるまで唇を押し付けてやった。

「これで文句ないわね」
「ないです」

 二人で息を切らしていた。

「行くわよ」
「はい」

 ぎこちなく前を歩くケータの背中は、シャツの白のせいか眩しい気がした。
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