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そんなことより野球しようぜ!(3)

 放課後の教室でテリーが隣の席の晶と話している。我慢できずに話しかけた。

「なんだよ、朝のは」
「だから、言ったとおりだよ」

 すまなそうな口調に、諦めの混じった微笑。晶は美人だけど、気に入らなかった。

「フツーの女の子に戻りまーす、ってか」

 我ながら意地の悪い言い方だ。

「やめて。あたしはこれでいいと思ってる」

 晶の目がきつくなった。彼女が転校してきて、初めて向き合ったと感じる。

「言いたくないのか」
「ごめん。そっとしておいて」

 言いたくない理由って何だ。俺みたいに壊れたわけでもないだろう。晶は変わってなかった。俺が期待してきたとおりに成長していた。
 じゃあ、辞める理由って何だ。俺がぐちゃぐちゃ考える間に、晶は帰り支度をしていた。いつもつるんでいる女子が、晶に話しかけている。

「ねえ、晶ー。今日ユキの誕生日だよー」
「あ、そうだっけ。おめでとー!」

 少し驚いて目を開いてから、笑顔を作る。おめでとう、とは思っているだろう。楽しい気分になっているのも嘘じゃないだろう。なのに、何だ。この作った可愛らしさは。

「今からカラオケ! 晶も行くよね?」
「えっ、今日?」
「今日に決まってんじゃん」
「ごめんね。用事あるの。ユキちゃんには悪いけどみんなで行ってきて」
「えー、何用事って」

(それを聞き出したところで、お前に止められるわけじゃねえだろ)

「ほんとごめん! 明日お祝い持ってくるから!」

 晶は鞄をひっつかんで、足早に教室を出ていった。忙しい奴だ。俺から去るときも走っていた。

「晶、付き合い悪いよねー」

 晶を見送って、女子の一人がぼやく。

「たまにはいいじゃんねー」
「なんか晶って冷めてない? うちらとは違うって顔してるときあるし」
「そう?」
「そうだって。気取ってるってわけじゃないけど、愛想の良すぎない? 心開いてなくない? いつまでもお客さんっていうか」
「それは言い過ぎだってー。晶も忙しいんだよ」
「そうかもしれないけどさー、うちらの為に作る時間もないってわけ?」

 これ以上聞きたくなかった。

「お前に晶の何がわかるんだよ」

 彼女たちには聞こえていないだろうが、口にせずにいられなかった。俺だって勝負の外での晶を知らない。晶だって本当は女の子らしいのかもしれない。

(晶はおめでとうって言っただろ。それでいいだろ)

「さあ、帰ろうか伊織。ゴーホームイオリン。ウィズミー」
「うーん……」

 テリーは勝手に教室を出ようとしていた。俺がなんとなくついてくることを知っているからだ。

「晶ちゃん、ひどい言われようだね。まだケツのこと言ってる俺のほうが紳士的」
「気分悪いわ。あれで友達かよ」
「まあ、あれで成り立ってるなら友達なんだろうね」

 駅に着いた。いつもとは違うホームに歩いていく。

「こっちじゃねえだろ」
「こっちでいいのさ」

 テリーがそう言うなら、そうなんだろう。

「何かあるのか」
「何かってほどでもないけどね」

 電車は、晶が越してきたのだという方向へ向かう。こいつの目的が見えてきたようで、見えてこないまま電車に乗った。

「まさかお宅訪問とかじゃねえよな」
「しないしない。さすがに俺もそこまではしない」
「じゃあ、そこまでじゃないことならするんか」
「必要ならそうするかもね」

 テリーは窓の外を眺めて黙る。冷徹な目だった。
 連れて行かれたのは個人経営の喫茶店だった。

「俺、放課後ティータイムなんて趣味はねえぞ」
「俺だってないよ」

 店に入る様子はない。向かいのコンビニに引きずり込まれた。なんとなくテリーに会わせて雑誌を立ち読みする。

「そろそろかな……」

 お前は探偵か。

「ほら、来た」

 通学鞄を置いて、制服から着替えたのだろう。トートバッグを肩に提げた、私服の晶がやってきた。ややタイトなTシャツにショートパンツ。適当な格好なのに、様になっている。
 長い脚の形が良くて戸惑った。

「晶ちゃん、あそこでバイトしよる」
「しよるって言われてもな、俺は困るぞ」

 何しに連れてきたんだ。

「何か事情があるのかもしれない」

 しばらくして、制服に着替えた晶が店内に出てきた。

「野球辞めるほどの事情か」
「さあ? 挙動が怪しいから尾けてみただけだから、これ以上のことは知らん」
「お前当たり前みたいに言うけどやってることキモいな」

 さすがに俺も引く。

「人聞きの悪いこと言うなぁ。多少手段を選ばないだけだよ」
「それで、どうするんよ」
「どうもしないよ。帰る」

 野球辞めるほどの事情って何だ。晶ほどの女が、辞めるほどの事情って何だ。
 ひどく喉が乾いた気がした。適当な雑誌と水を買ってコンビニを後にした。町内放送が、良い子は家に帰れとエコーをかけて追い立てる。
 まだ明るい。

「俺な、バッセンで晶見てるんだわ」
「えー。じゃあ辞めてないじゃん」
「しかも通ってるらしい。スイングも見たけど劣化してなかった」
「じゃあさー、なんで辞めたとか言うわけ?」
「それがわかんねえから苛つくんだろうが」
「うち、女子ソフト部あるじゃん。そっちじゃだめなんかな」
「だめなんだろうな。スポーツ全般、本気でやる気ないだろ」
「なんであんなことするんだろ」
「なんでだろうな」

 晶ほどの素質があれば、インターハイだって国体だって、世界だっていける。晶は望めばどこにでも行ける。
 理解できなかった。
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「人を楽しい気分にさせることは素晴らしいことなんよ」を座右の銘にがんばります。
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