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呪い合った僕らの秋の終わり

ブルーハワイの呪い』の後日談です。



 持つべきものは頭のいい友人と彼女である、とは誰も言わなかったかもしれないけど、思った人はいるかもしれない。
 大学の推薦をもらえなかった僕と卯月は互いの家を行き来して受験勉強をしていた。僕が得意な科目は卯月が苦手で、卯月が得意な科目は僕が苦手なのだ。教え合えば復習になる。

「弥生が羨ましいな」

 一息入れたくて、ぬるくなるのを通り越して冷たくさえなったお茶に口をつけた。
 テーブルの向かいに座った卯月が、顔を参考書に向けたまま視線をよこす。

「アレはパーフェクト超人だ。アレと自分を比較すると悲しくなるぞ」
 
 卯月はシャーペンをタクトのように振る。

「自分の弟を『アレ』呼ばわりかよ」

 あいつ――卯月の弟の弥生――は、眉目秀麗とか文武両道とかとにかく人を褒め称える四字熟語を全部かっさらっていくような男で、こいつがまたいい奴だから始末に困る。
 卯月とも親しくなった頃、弥生が「俺、多分シスコン気味に育った思うんだよね」なんて自己申告してきやがった。そんなだから、僕が卯月と付き合うことになったと報告したときは少しは表情を曇らせるのかと思ったら、心底安心しきったような顔で「ねーちゃんをよろしく」ときたもんだ。あれには「負けた」と思わされた。何に於いて勝負を挑んだのかわからないけど、とにかく「負けた」と思い知らされた。
 
「お茶冷たいね」

 と、卯月も湯飲みに口を付けて言った。

「すぐ冷めるあたり、もうすぐ冬だな」
「来年はあたし達、高校出てるから高卒ドラフトで指名される子達も年下になるんだよ」
「ああ……中学まではおっさんくさく見えてた野球部の連中があっという間に同い年になって年下か」
「なんかすごいことがしてみたいな」
「すごいことかぁ」
「大学合格とか?」
「しょぼくない?」
「いやいや、今の俺らにとっちゃ十分偉業だぜ?」

 卯月は座椅子にもたれて手の中の単語帳を弄ぶ。

「ん? 今日何日?」

 唐突だ。

「十月三十一日」
「なんと」

 卯月は学校指定の鞄を探るとお菓子を出した。ちくわみたいな形のパフにチョコレートがコーティングされてるアレだ。
 そいつを僕の目の前に突き出して

「トリックオアトリートぉう!」
「ちがくね?」

 これには僕も戸惑いを隠せません。

「えっ? お菓子かイタズラでしょ?」

 「そんなことも知らないの?」と言いたそうな顔。いやいや、知らないのは君だ。

「『お菓子もらうかイタズラされるか選べ!』って、それだったら迷わずお菓子取るだろ」
「ぬ」
「間違いを認めろ」
「いいのぉ? ほんとにイタズラされなくていいのぉ?」
「何なのぉ? 何してくれるのぉ? イタズラだったら俺何されちゃうのぉ?」
「ぐっ……」

 珍しく僕が口で勝った。

「続き、とか?」
「何の」
「お祭りのときの、あれの」

 元々ハスキーな声が、擦り切れそうに小さかった。
 顔をそむけているのはカーテンの隙間から射す西日が眩しいのか、いや、僕だってそこまで鈍くない。
 鈍くないので、立ち上がってカーテンをきっちり閉めた。



 あとはもう、やりたかったことやって、上手くできたとか下手だとか、そんなもんはどうでもよかった。



「ほんとはさ」

 卯月は布団の中から腕を伸ばして鞄を引っ張り寄せた。
 その中からかぼちゃプリンを二つ出して、一つを僕に渡した。「食べろ」ということらしい。

「うん」
「いろいろ落ち着いてからかなって思ってた」
「俺もなんとなくそう思ってた」
「でも、『いろいろ』なんてそんなもん落ち着かないんだよ。一個片付いたら一個出てくるんだから。落ち着かないことなんて」

 思わずプラスチックの小さなスプーンを口の中で噛んだ。
 割れそうですぐやめた。

「それはまあ、そうかもな」
「だから今日でよかったんだよ」

 卯月はいつも正しい。良くて善くて好い女なのだと思う。
 人間を語れるほど人間を見てきたわけじゃないけど、この見立ては正しいはずだ。

「とりあえず受かろうぜ」
「だね」

 卯月は僕を見捨てない。
 恋人の間柄になったあの日、卯月は「藤堂は大丈夫だよ。あたしがいるんだから」と言い切った。何が大丈夫なのかとか、どうして大丈夫なのかとか、そんな論理は斬り捨てて「大丈夫」と言い斬った。

 受かれば喜び、落ちればひとしきり落胆して浪人するだけだ。
 そう構えられるようになったということは、やっぱり僕は「大丈夫」なんだろう。

 テーブルの上、空になったかぼちゃプリンのパッケージにプリントされたジャック・オ・ランタンが笑っていた。
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「人を楽しい気分にさせることは素晴らしいことなんよ」を座右の銘にがんばります。
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