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女「解禁したったwwwww」【前編】






―――――月曜・朝・非常階段―――――

志乃はすっかり元気になった。
心なしか髪まで伸びた気がする。

気のせいじゃない。
金曜は肩にぎりぎり届くくらいだったのが、5センチは伸びている。
その伸びた髪もいやにつやつやしていて、彼女が動く度に反射光を波打たせるのだ。

「志乃っ、出る……!」

どくどくと精液が出るのに合わせて、志乃の喉が鳴る。
僕は壁にもたれて荒くなった呼吸を整える。
志乃は僕のおとなしくなった性器をしまいながら、僕の口に舌を入れる。

(平日の朝から何やってんだ俺は……)

志乃と舌を絡ませながら、陶酔感と後ろめたさが頭に満ちる。

この土日、僕は徹底的に搾り取られていた。
彼女の気が向いたときには体液(主に精液)を介して精気を与えていた。
おかげで今の彼女は美容本で一儲けできそうなくらいきれいだ。

お義姉さんからも「もう大丈夫でしょ」と太鼓判を押された。
これで大丈夫じゃなかったら、僕は絶望する。

志乃は「ぷは」と口を離した。

「ごちそうさま」

うふふん、と甘えた声で笑いながら僕の鎖骨のあたりに額をすりつける。
彼女の髪を撫でると、しっとり吸いつきながら、しゃらんと僕の指から流れていった。

「なに?」

「不思議な感触だなと思って」

「今なら世界が嫉妬する」

「だろうな」と、僕は適当に流す。

「志乃、やっぱり髪伸びてる」

「え」

「今度こそばれるぞ」

「それは困る」

彼女は少し考えて、自分の鞄を探り始めた。

「よかった、まだあった」

と、ゴムとピンを出す。

「まとめればごまかせるはず。私って賢い!」

志乃は櫛を使って髪をまとめ始めた。

「ポニーテールにしようぜー」

「なんで男ってあれ好きなの?」

「ポニーテールにしようぜー」

「……」

「ポ」

「もー、わかったよぅ」

志乃は「うはww超まとまるwww」と自分の髪に感動しながら髪を結んだ。

(お前の髪がスーパーリッチなのは俺の汁のおかげなんだぞ)

「くくるの久しぶりだよー」

「ずっと下ろしてたもんな」

「なんか首がぐらぐらするよー」

「お前は乳児か」

「どう?ちゃんとできてる?」

「うん。可愛い可愛い」

素直に誉めた。

「いやんー」

彼女は頬に手を当ててうつむく。
恥じらうポイントがずれている。

僕達の下で、金属の扉がぎっと開いた。
二人でとっさに気配を殺す。

――みつかっても、今は別に平気じゃない?

彼女は携帯に文字を打ち込み、僕に見せる。
問題ないとわかっていても、まだ警戒してしまう。

少しすると、薄く煙草のにおいが上ってきた。

校舎は全棟禁煙だ。
ヘビースモーカーの教師は肩身が狭そうに、申し訳程度に置かれた喫煙コーナーで吸っている。
じゃあ、下で吸ってるのは生徒か。

――どうする?

――向こうは一人みたいだし、静かにどっか行こう。

僕も携帯に字を打って見せた。

――見つかったら?

――都合が悪いのはあっち。

僕は校舎の廊下に戻る扉を一気に開けて、志乃の手を引いた。

「なんだったんだろね」

「さあ?難しい年頃だし、悪いことしたいんだろ」

中学の頃、仲の良かった同級生がグレて疎遠になり、寂しい思いをしたのを思い出した。

「あ、そうだ。戻る前に渡しとく」

彼女は鞄から包みを出した。

「おべんと。作った」

「お、おう」

「食べて」

彼女ははにかみながら僕に弁当を持たせた。

「おお……サンクス」

にやけるのが我慢できなかった。

―――――教室―――――

教室に戻ると、志乃は女友達の輪に入っていった。
志乃のいる輪から、「えー!」とか「マジで?」といった声が上がる。
反射的に目を向けると、僕を指さす志乃と目が合った。

――友達に自慢していい?

どうしていいかわからず、口の端を上げてから視線を鞄に戻す。

「春海ー、聞こえたぞー」

友人・長野がゆらりと寄ってくる。

「あー、聞こえちゃいましたか」

「なんで話してくれなかったの!俺というものがありながら!」

「言ったらお前、壁殴るだろうが」

「なんだよもう!末永く爆発しろ!」

「あー、はいはい。ありがと」

「で、どっちから?」

と、長野は僕の隣の席のイスを引き寄せて座る。

「何がよ」

「告ったのに決まってるだろうが」

(ぺろぺろされてその流れでなんて言えない……)

少しくらい恥ずかしい思いもしてやるか。

「あー、お、俺から……」

「マジで?春海さんマジ勇者っすね」

「そうそう。前からいいなって思ってたから」

(これはまあ、ほんとだけどな)

「志乃ちゃんに友達紹介してって頼んでー」

「お前が言えよ」

「ねえー、たのんでー」

「だからなんで俺がー」

「だってあの子警戒心強そうじゃん。野良猫系? 俺、話しかけていいの?」

「さあ?いいんじゃない?」

(いい子だけど少し変わってるからな……)

僕も始めはどう接していいかわからなかった。

「大体いつの間に仲良くなってんのー?ねえなんでなんでー?」

「俺にもわかんねえ……」

お互いテンションのギャップにため息をつく。

「なんかさ、春海枯れてない?」

「失礼だな」

「いや、マジでマジで。今日のお前には思春期特有のイカ臭いオーラがない」

「それは……」

「白濁色の波紋疾走!」

と、僕に拳をぶつける。

「痛いって。なんだよ白濁って。汚いな」

「ほらー、枯れてるー。なんなの? 抜きすぎたの?」

「いやぁ、そんなことはございませんけど」

(それだ! 絶対それだ!)

ここでチャイムが鳴った。

「ま、考えといてよ。紹介の件」

そう言って長野は席に戻った。

―――――昼休み―――――

志乃は女友達の島で質問攻めに遭っている。

(なんだあのテンションは……通過儀礼なのか)

長野と向き合うように机を寄せ、鞄から弁当を出す。

「珍しいな、弁当?」

「うん、まあ」

「志乃ちゃん作?」

僕は何も言わなかったが、にやけていたのだろう。

「乙女なんだなー」

長野は意外そうに感心していた。

(志乃、可愛いけど喋ると残念だからな……慣れたけど)

わくわくしながら蓋を開ける。
口では素っ気なく受け取ってしまったけど、実はめちゃくちゃ嬉しかったんだぜ。

「へー、いいもん入れてくれてるじゃん」

「あ……ああ……」

(ひじきの混ぜごはんに山芋とれんこんの天ぷら……
 かぼちゃの煮物にほうれん草の入った卵焼き……
 あと肉と玉葱を合わせて炒めたやつか……)

なんだこの精のつきそうなラインナップは。

(やっぱりあいつはアサシンだ)

(これ以上搾り取ってどうする気だ……)

(もう十分回復しただろ)

(え? じゃあ何? 俺、おやつ感覚?)

(何が悔しいって美味いのが……)

(ああ……ごはんがごはんがススム君……)

複雑な気分だった。
精力に特化していなければ素直に喜べたはずだ。

(ヤバい。もうヤバいなんてもんじゃない。まじヤバい。志乃の弁当ヤバい。志乃の弁当で俺の精巣がヤバい)

「なんだよ、もっとのろけると思ったのに」

「いや、幸せすぎてなんだか怖いわ」

そうだ。僕は間違いなく幸せだ。

(なのに、何だ。この喪失感は)

「やー、ほんとうらやましいわ。性欲をもてあますこともなくなったわけだし」

「それだ」

僕は気づいてしまった。

「え?」

「――あ、いや何でもない」



僕は気づいてしまったのだ。



(そーいやオナニーしてねえわ)



ズボンのポケットで、携帯が震えた。

「悪い、なんか着た」

「なに、好きって?」

「ないない」

携帯を開く。お義姉さんからのメールだった。

――帰りに、事務所に寄ってちょうだい。

どうやら仕事が来たらしい。

「メルマガだった」

僕の口は、つるりと嘘をついていた。

「つまんね」

これで良かったのだと思う。
バイト先からとはいえ、簡単に説明できる業務内容じゃないのだ。



―――――放課後・ナオミの部屋―――――


今日のお義姉さんはざっくりした網目のサマーセーターに細身のジーパンをはいていた。
大ぶりなペンダントトップが胸の前で揺れている。

「今日のテーマはさばけたいい女ですか」

この人にはファッションの好みなどないのかもしれない。
何を着ていても舞台衣装にしか見えないのだ。

「あら、わかる?」

ふふふ、と艶めかしく笑いながら、僕らにお茶を出してくれた。

志乃は僕の隣で、緊張した面もちで身を固くして座っていた。

「あなた達を呼んだのは、わかってるわね?」

「呪われた人、来たの?」

「そう。仕事よ」

お義姉さんは男の写真をテーブルに並べる。

「――20歳男性。県内の大学に通う学生で、家族構成は両親と高校生の妹が一人――」

造作はいいのだろうが、どうにも締まりのない顔だ。
会ったこともないのに不愉快だと直感した。

「チャラそうっすね」

自分の中で、仕事を勝手に深刻にしたくなくて茶々を入れる。

「そのとおりだったわ」

「この人、なんで呪われてるんだろ」

「あなた達にはその解明を手伝ってもらうの」

「俺達に、できるんでしょうか」

「大丈夫よ。私がついてる。それに――
 人の心に関してはあなた達の方が得意なはずよ」

お義姉さんは口元だけで笑った。
どこか自嘲気味に見えた。

「買い被りすぎですよ」

「そんなことないわよ。妹の進化に介入したくせに」

「あっ、でも私、今の自分イヤじゃないよ!」

「前向きね、妹。なんて健気なの」

お義姉さんは勝手に感動している。

「それに比べてこの義弟ときたら、やる前からうじうじと――」

「そりゃ心配にもなりますって。手順はどうなってるんですか?」

僕は鞄からペンとメモを出した。
仕事を教わるときはメモを取れと、両親ともにしつこく言っていた。
僕もそうした方がいいと思ったのでそうする。

「まず対象に接触します」

「いきなりハードル高すぎますよ」

手からボールペンが落ちて転がり、志乃の膝に落ちた。

「そのための変装じゃない」

志乃が拾って僕に渡す。

「あなたの変装は目立ちすぎるんですよ」

公園のベンチに座る、コールガールな格好のお義姉さんを思い出した。

「あら、今回は簡単よ。だって彼、あなた達の学校のOBだもの」

「ああ、進路の――」

「さらにタイミングのいいことに、週末はオープンキャンパスよ」

「この人をだますの?」

志乃は気が進まないみたいだった。

「そうよ。でも、そうすることでこの男と呪ってる人間の命を救うことはできる」

(命を救うなんて、大それたことを)

「呪いは、人を殺しますか」

「ええ、程度が強ければ。失敗すれば呪いは術者に返る。結末は……同じね。そうなる人間が違うだけよ」

「余計に危険じゃないですか」

「だから私がいるのよ」

お義姉さんの態度は、どこまでも不敵だった。

「段取りは私がしておくから、あなた達は彼の妹に接触して」

「まさかその妹――」

「察しがいいわね。同じ学校に通ってる」

お義姉さんは機嫌良く、妹の写真を差し出した。頭の良さそうな子だった。
目に少し怯えがうかがえるが、それ以上に眼光は鋭い。
美人だけど、ロクな目には遭ってなさそうだ。

「この写真、どこで――」

「そこは人外の能力を有効活用よ」

――私はどこにでもいるし、どこにだって現れるわ。

「ああ、不法侵入」

「失礼ね。超法規的措置じゃない」

「俺の部屋に入ったのはいいんですか」

「私の法は私よ」

「あんたって人は……」

でも僕は、この人が嫌いではなかった。



―――――帰り道―――――

僕と志乃はナオミの部屋を後にした。

「お弁当箱かえして」

しばらく歩いたところで、志乃は僕に手を差し出した。

「すまん、忘れてた」

鞄から、軽くなった弁当箱を出して渡した。

「ありがとな。美味かった」

本心だった。

「ほんと?」

志乃は「やった」と軽くガッツポーズをした。

「何が好き? 今度つくってみる」

「今度は精力に関係なさそうなのがいいなぁ」

僕は昼から決意していた。

「志乃、しばらく精子は禁止だ」

許せ志乃。愛してるぞ志乃。

「えっ……」

志乃の顔から表情がぬけ落ちた。
かわいそうだが、僕の決意は堅い。

「恥ずかしながら、俺はお前に抜かれ続けてここ数日一人でできてません」

「……あたし、下手かな」

彼女は悲しそうな、寂しそうな顔になった。

「そんなことはない。めちゃくちゃ気持ちいいし、毎日だってお願いしたい」

「じゃあいいじゃん。win-winで良好じゃん」

彼女の顔に少し苛立ちが混じってきた。

「そうだな、win-winだな。だが俺のtin-tinはおやつじゃないんだ」

「う」

「それにお前、吸いすぎじゃないか。節制しなさい」

「もったいないよぅ……」

「無期限じゃないんだから、泣きそうな顔するなよ」

志乃の歩調が重くなる。落ち込んでいるらしい。

「じゃあ、朝ちゅっちゅするのも禁止?」

彼女は上目遣いに僕を見た。

「いや、それはしよう」

「基準がわかんない」

この気持ちがわからないのは、志乃が女だからかヴァンプだからか……。
どっちだろうなぁ。

「志乃、俺は童貞だ」

志乃は吹き出した。顔が赤くなっている。

「いきなり何を――」

「だから正直、ここ数日の展開をラッキーと思ってる一方で戸惑っています。ここまではわかるな?」

「うん」

「俺も心を落ち着けたいんだ」

「その手段が、その……」

志乃は口ごもりながら下を向いた。

彼女も何も知らない訳じゃない。
言葉は知ってるが口にはできないのだろう。

「そういう気分で抜くときはね、誰にも邪魔されず、
 自由で、なんというか救われてなきゃあダメなんだ。
 独りで静かで豊かで……」

「なに、哲学?」

彼女の好奇心のスイッチを押したようだ。

「終わったときは悟りが開けそうだな。落ち着きすぎて」

「そっか」

とりあえず、納得してくれたようだ。

「ずっとダメって訳じゃないんだから、落ち込むなよ」

「わかった」

「わかってくれたか」

「うん。……でも、おかずに使うのは私だけにしてほしいな」

今度は僕が面食らった。

「お、お前な……」

(そりゃもう、ここ数日の思い出を胸に、ガンガン使わせてもらう気でいましたけど)

「だって妬いちゃいそうなんだもん」

志乃はそう言いながら照れて笑った。


―――――火曜日・朝・非常階段―――――

昨日、人とニアミスしたにも関わらず、僕らは相変わらずここで乳繰り合っていた。

(我ながら懲りないな)

志乃は僕の隣に座って、体を寄せている。
朝の風がひんやりして気持ちいい。
彼女がくっついている体の側面は温かい。

「あの子、どうやって近づけばいいんだろ」

「ああ、あの男の妹か」

「学年同じとは聞いたけど、フロアが違うからなー」

「ほんと、下の階と交流ないよね」

二人で長く息を吐いた。

「下に行く用事ある?」

「ないな」

「ですよねー」

志乃は僕の手を取って、手のひらを揉んでいる。

「何してんの」

「手持ち無沙汰ー」

「気分悪くなったりしてないか?」

「んー、平気」

何か考えているようだ。

「あのね、話すようになったきっかけ覚えてる?」

彼女の言わんとしていることがわかった。
僕は、ある日の暗い夕方、変質者につきまとわれる彼女を助けた。

――ねえ、私、つけられてる。助けて。
  しばらく話しながら一緒に歩いてくれるだけでいい。

怯えながらも毅然としていた。
このとき僕は、彼女を勇気があるとは思わなかったけど、腹の据わった女だと思った。

「あの日の再現か」

「気が進まないんだけどね、気を許してもらうには、助けてあげるのが近道かなって」

芝居とはいえ、相手を怖がらせてしまうことに変わりはない。

「尾行は誰が?」

「おねーさんでいいと思う。つけられる感覚って、相手がわからなくてもわかるから」

どうか比較的まともな格好でお願いしたい。

「それなら安全か……でも」

「なんか悪いよね……」

「そうだな」

僕は彼女の肩を抱いた。

「わ」

口でフォローしても、彼女の罪悪感は拭えないと思った。

「な、なに?」

「お前は悪くないよ」

彼女の後ろめたさが払拭されるのは、きっとこの事件が無事解決する瞬間だ。
それまではモヤモヤするんだろう。それは僕も同じだ。

「俺もそうしようって決めたんだから、お前だけが悪いって思わないでいいよ」

彼女からは、叱られたように力が抜けていた。

「共犯――んっ」

乱暴にキスをして黙らせる。
彼女が何度か僕の胸を叩いたけど、無視した。

「ぷはっ……だめだって――」

「だめじゃない」

「やめてよぅ……」

彼女は眉根を寄せて抗議する。僕はそれも無視する。

「お前がごちゃごちゃ悩んでるうちはやめない」

指で唇をこじ開けて舌を入れる。
肩を抱いたまま、もう一方の手で背中を撫でると、彼女は身を任せてくれた。
微かに喘ぎながら僕の舌を吸う。
彼女は僕のシャツの胸のあたりを掴んでいた。

「皺になるから放しなさい」

力が入らないらしく、目が半分も開いていない。
しどけなく開いた唇が濡れて光っている。

「どこ持ったらいいの」

「腕、回したら?」

「ん」

と、彼女が僕の首に腕を伸ばそうとした瞬間、下の方で扉が開いた。
二人で硬直する。

また、昨日と同じように煙草の煙がのぼってくる。
志乃は下の方を指さした。

(昨日の奴か……)

僕は校舎に戻る扉を開けた。


―――――放課後・依頼人の妹の通学路―――――

昼休憩に、お義姉さんにあの子をつけてほしいと頼んだ。

――相手に尾行されていると気付かれてほしいんです。

――あら、それは難しいわ。逆なら簡単なんだけど。

俺に勘付かれたでしょうが、という無慈悲なツッコミは胸にしまって、
僕は今、志乃と対象の待ち伏せポイントに来ています。

駅前のファーストフード店の、窓際の席を陣取って既に1時間。
そろそろ他の客に悪い気がしてくる。

「待ち伏せって、ここに来る訳じゃないよな」

「近くには来るんだろうけど――よくわかんない」

「追い込むったって、相手のパターンがわからないと難しいよなぁ」

「……」

彼女はやや上を向いて黙った。

「――あ、おねーさん。
 ――うん……うん。
 ――りょーかい。接触しまーす」

「受信したのか」

「うん。行ってくる。待ってて」

「大丈夫か、一人で」

「女同士の方がいいこともあるでしょ」

そう言う志乃の口調は、お義姉さんのものに似ていた。

単語帳を繰る振りをしながら志乃を目で追う。

――周りを省みず、飲食店で勉強してるバカップルの設定でいきましょう。

(大体待ち伏せに設定なんか要らんだろ……)

携帯でもいじってた方が、ずっと自然だと思う。

(まあ、そういう設定だしな)

彼女は待ち合わせスポットでもある、駅前の噴水のベンチに腰掛けている。
少しして、また上を見つめながら口を動かすと立ち上がった。

(お、来るか)

志乃が動いた。

人通りは少ない。
行き先の決まってなさそうな、少しずつ振り返りながら歩く同じ制服の女子。

(あれか)

志乃が手を挙げて親しげに話しかける。あの子は戸惑っている。
志乃を無視しようか、頼ろうか迷っているらしい。

何度か言葉を交わして、志乃は彼女を連れて戻ってきた。

僕は机に目を落とし、頬杖をついて問題がわからないポーズを取る。
外から窓が軽くノックされる。
志乃が小さく手招きをする。
気の毒な妹は、帰りたくて仕方ないように見える。
僕はテーブルを片付けて席を立った。

「春海ー、女の子拾ったったーwww」

志乃は極力バカっぽく楽しそうに言った。

「おまえなー」

「だって様子が普通じゃなかったんだもん。ねー?」

志乃はなれなれしく話を振る。

彼女は申し訳なさそうに「いえ、すみません」と下を向いた。

(詫びるのは僕らの方なんだけどな……)

「ねー、お腹すいたー。どっか入ろー。お茶しようよー」

志乃は加速する。
このまま煙に巻いて主導権を握るつもりらしい。

「って言ってるけど……一緒にどう?」

ささやかに援護する。

「でも――」

「じゃ、警察行く?」

「えっと、そこまでは――」

対処としては正しいが、相手がはっきりわからないのに助けを求めるのは気後れするのかもしれない。
彼女は口ごもった。

「いいじゃん、いいじゃーん。高校一緒でしょ? ご縁だと思ってさー」

「でも邪魔しちゃ悪いし……」

と、僕を見た。
ここは解放してやった方が、本人は気が楽になるのかもしれないが、そうはいかないのだ。


「俺は気にしないよ。それに、もし本当にやばい奴で何かあってからじゃマズイし」

(やばくもないし、何も起こらないんだけどね)

唇を噛む彼女を見て、やっぱりすまない気持ちになった。

「さ、行こ行こ」

志乃は適当な店に目をつけ、「ほーら期間限定だよー」といいながら彼女の手を引いた。

兄に向けられた呪いのとばっちりを受けた妹は、もう遠慮も抵抗もしないように見えた。


―――――喫茶店・店内―――――

(さて、対象に接触したはいいけど、ここからどうするよ)

志乃はさっさと、生クリームの乗った一番甘そうな飲み物を注文してしまった。
僕はとっさに、メニューの一番上にあったコーヒーを頼んだ。彼女もそうした。

「あ、あの」

彼女が切り出す。

「ありがとう。正直なところ、やっぱり怖かったから」

「うううん。いいんだよぅ。あたし志乃。これ春海」

「これ」はないよなぁ……。

「佐伯です」

「下の名前はー?」

志乃はどこまでも気安い。

「朋美」

「へー。トモちゃん」

(同性相手なら社交的になれるのか……。無理してないよな?)

「校章同じ色だから同級生か」

志乃にばかり喋らせていても良くないかと、当たり障りのないことを言った。

「あ、ほんとだ」

「会ったことないよね。違う階?」

佐伯さんは、やっと自分から話してくれた。
ここで、飲み物が来る。
これで間がもつと思うとほっとした。
黙っているのも気まずいが、僕が出しゃばっても変だ。

(おおぅ、よく喋るな……)

「あたし達2組」

「私は7組」

「あー、どーりで会わないわけだ」

「うんうん」

僕は二人の会話を注意深く聞きながら、適当に相槌を打つ。
聞き込みで得られる情報なんて雑多なもので、まともなものは1割あれば上等だ。
……と、お義姉さんが言っていた。

「へー、二人はつきあってるんだ」

(……まあ、初対面の子が無難にのっかれそうな話はこれくらいだよなぁ)

二人揃ってるときに言われると気恥ずかしい。
少し顔がゆるんでしまったかもしれない。
志乃は「うふーん」とニヤニヤしている。

「彼氏さんいい人そうだよね。いいなー」

「春海は私のおててがこんなだから、お世話してくれてるんだ」

と、包帯でぐるぐる巻きの両手を佐伯さんに見せつける。

(ほんとは完治してるんだけどな)

「そうそう。健気でしょ、俺」

いい加減に調子を合わせつつ、コーヒーに砂糖とミルクを入れるて混ぜる。

(俺の笑い方、不自然じゃなきゃいいけど)

「トモちゃんは彼氏いないのー?」

「いないいない。なんか男に夢が持てなくてさ」

と、佐伯さんは顔の前で手を振った。
ここからだ、と思った。

「なんでー? 美人なのに。もったいないよー」

「美人とかwwないからwww」

「そうかなー」


「そうだよ」

と、志乃はスプーンで生クリームをずぶずぶと液体に沈める。

「まあ、日常的にダメ男見てるからね」

「ん? 知り合い? 兄弟とか?」

「そうそう。兄貴がね。もう反吐が出るわ」

(一気に核心に近づいたな。油断ならん)

僕は聞くことに専念する。
佐伯さんはブラックのままのコーヒーにスプーンを入れて回している。

「お兄さんそんなひどいの?」

「もー、あんなのが兄貴だなんて思いたくない。
 彼女がコロコロ変わるだけならまだしも、浮気しまくりだよ。ひどくない?」

「それはひどい」

僕はカップを口に運びながら、無言で二度うなずいた。

「一人暮らしのはずなのに、しょっちゅう女の人と揉めて家に逃げ帰ってくるしさ。
 じゃあ、そもそも揉めるなっつうの」

「うわー。とばっちり受けそう……」

「受けそう、じゃなくて受けたことあるんだよね。なんか家の前で待ってた元カノに叩かれたし」

彼女は湯気の立たなくなったコーヒーを一息に飲み下し、不味そうな顔をした。

「うわぁ……」

ここまで軽妙なトークを繰り広げていた志乃も、さすがに沈黙した。

(男でごめんなさい)

僕は全く関係ないし、ちっとも悪くないのに、そう思った。

(呪われる原因は女性問題か……)

そりゃ恨まれるだろうよ。
動機はわかったが、呪ってる人物を絞るとなると骨が折れそうだ。

事情は志乃が一通り聞き出してくれたが、聞けば聞くほどひどかった。
佐伯さんは喋ってすっきりしたようで、強引に引き留めたにも関わらず礼まで言われた。

「そろそろお母さんが仕事終わるから、適当に合流して帰るよ。今日は助けてくれてありがと」

彼女はすっきりした顔で

「学校同じだし、また会うかも。そんときはよろしく」

と言って改札をくぐった。

僕たちは彼女を見送って、取り残されたような気分になった。

「これで動機はわかったな」

「うん……」

志乃は浮かない顔をしていた。

「まあ、恨み買って当然だよな」

志乃は僕の隣にきて、手を繋いだ。

「死ねばいいのにって思っちゃった」

「お、自己嫌悪しているな」

「そりゃするよ……」

彼女はため息をつきながらうなだれた。

「人を助けるって言っても、その人が善人とは限らないよ」

「わかってはいたんだけど、そんな奴のために動いてるのかと思うとね」

「佐伯さんにも要らぬ火の粉がかかってるしな」

「うん……あの子、何も悪いことしてないのに」

志乃は手を繋いだまま、僕の指の関節をぐりぐりする。

「あんな奴ほっときたいよ。どうせ同じこと繰り返すんだよ」

「だろうな」

志乃はまだ何か言いたそうにしていたけど、改札の時計を見てやめたみたいだった。

「帰りたくない」

僕だって、今の志乃を一人で帰すのは心配だ。

「つらかったら電話しろよ」

「何話していいかわかんない」

「何でもいいんだよ。佐伯さんだって、きちっと順序立てて話してなかっただろ」

「うん……」

「吐き出すっていう行為そのものが、すっきりできるんじゃないか」

彼女は納得したようなしてないような素振りで、「ふうん」と声を漏らした。


「帰ろ」

「大丈夫か」

僕が彼女を心配しているようで、たぶん僕だってこのまま帰るのは嫌なんだと思う。
このまま煮えきらない気分を持ち帰りたくはない。

「……うん。そのかわり、明日はいっぱいいちゃいちゃする」

(いっぱいか……)

下半身がぴくりと反応した。
僕はまだ元気だと思った。


―――――水曜日・朝・非常階段―――――

二日連続で人とニアミスしておいて、学習しないのか、僕らはまた非常階段でちゅっちゅしていた。
三日目ともなると、半分は意地である。

志乃が僕の腿に触る。
僕はそのままにしておくが、その手が上がってきたところで邪魔をする。

「うぅ、まだだめ?」

「まだ二日目だろ」

「口寂しい」

「ガム感覚で言うなよ」

(そろそろかな……)

(性的な意味で)テンションが上がったところで、ふと思い出す。

「志乃、ちょっと待った」

「なに?」

「来る」

ちょうど、下の方で扉が開いた。
靴底が金属の板でできた踊り場を叩く音がする。
息を潜める。

(人の逢瀬を邪魔するなんて無粋なやつだ)

鞄を探る音。
ライターのスイッチを何度か押して――着火。

(エッチなのはいけないが、俺がエッチなのを邪魔するのはもっといけない)

そして、匂う煙。


(ぬうぅ……!)

僕は怒っていた。

(至福のときを邪魔しおって……!)

(大体未成年が煙草なんていけません!)

「――注意してくる」

「え、ちょっと」

志乃が僕を止めようとしたが、僕は怒っているのだ。
僕は彼女の耳に口を寄せた。

「ハーネスによって速くなる馬もいる。今、俺を走らせるのは……エロスだ」

彼女は口を開けて固まった。
僕は足音を殺して階段を降りる。

(SWATの気分だな。「クリア!」みたいな)

相手が僕に気づきそうになったが、僕が手を出す方が速かった。

「いった……! はなせよ!」

「だっ、ダメじゃないかー!喫煙はダメじゃないかー!」

かっこよく決めるつもりだったが、現実は甘くない。

「吸ってないし! 燃やしただけだって! よく見てよ!」

ここで初めて、僕は相手が佐伯さんだと認識した。

「あ……」

「もう。嫌なとこ見られちゃったなぁ」

彼女はここで、手を掴んだのが僕だとわかったらしい。
ばつが悪そうに頭をかいている。

「……あ、その、すいませんでした」

怒りも劣情も海綿体も萎えてしまって、僕は謝っていた。

「あ! トモちゃん!煙草はいかんよ、煙草は!」

志乃が階段を降りてくる。
さっきの僕と同じ調子だ。

(人の話聞いてないな……)

「未成年でしょ! ポイしなさい。黙っててあげるから!」

志乃が佐伯さんに食ってかかる。

「志乃、佐伯さん吸ってない。吸ってないから」

「なに、じゃあ何でこんなもん持ってるの?」

志乃は忌々しげに、足下で潰れた煙草の箱を見る。
オイルをつけて点火したのか、短い時間でよく燃えたようだ。

佐伯さんも同じように、視線を落とした。

「嫌がらせでね……」


佐伯さんは手の中でライターを弄びながら話し始めた。

「あいつ、いつも金ないって言ってるくせに、煙草だけはしっかり買ってんの」

(壁紙がヤニで染まってそうだな)

「帰ってきたとき、家の中でも吸うもんだから、なんか常に煙たいような気がして」

「吸わない人にはきついな……」

「顔見るだけでも嫌なのに、あいつがいないときでも匂いが残ってるの」

(復讐とまではいかなくても、何らかの形で憂さは晴らしたくなるだろうな)

「こんなことしても、何にもならないことくらいわかってる。
 ただ、あいつが嫌な目に遭えば少しはすっきりするかなって」

「だってさ。志乃、わかったか?」

志乃の顔には、ほんの少し険が残っている。

「ねえ、トモちゃん。お兄さんを殺したいって思ったことある?」

「お前、なにを急に――」

デリカシーもなにもあったもんじゃない。
単刀直入にもほどがある。

「お兄さんを呪ってますか?」ってことだろ。
「犯人はあなたですか?」って聞いて、そう自白する奴なんていない。

「昔は、何度か思ったけど……。でも今は、嫌いなだけ。死んでほしいとも思わない」

「ただ、関わりたくない」と彼女は締めた。

関わりたくないと言う割に、嫌がらせするのは矛盾してるけど、この程度なら不自然じゃない。

「トモちゃん、ここで燃やすのはやめようよ。見つかったら言い訳できないし、何より火事がこわい」

「そうかな」

「そうだよ。そんなチマチマしたせこいのなんてやめてさ、
 家の庭に煙草と灰皿放り出して、盛大に燃やしちゃえばいいんだよ。
 もうちょっとしたら秋だし、落ち葉でよく燃えるよ」

「あなた、変わってる」

佐伯さんが何を考えているか、表情からは読みとれない。

「ふふふん。よく言われるー。
 でも、そんな屈折した嫌がらせ思いつくトモちゃんも変わってるよ」

佐伯さんは、くっと笑った。

「まだ時間あるね……。捨ててくるわ」

彼女は鞄を持って、去っていった。

佐伯さんが見えなくなると、僕達は一気に息を吐いた。

「きっ……緊張した……」

「あんたがいきなり降りてくから、どうしようかと思った」

「佐伯さん、不良じゃなくてよかったな」

「でも、単純に悪ぶってるより深刻じゃないかな」

「あれだって、一応攻撃性の発露だしなぁ……」

「うん……あんなことしようって考えて、実行しようって判断して、
 実際にやっちゃう精神状態ってことでしょ。やっぱり心配だよ」

「普通、兄貴がああだったら嫌がらせの前に口か手が出るだろうしな」

「特別気が弱いわけでもなさそうだしね……。そうなる環境だか何だかがあるんだよね、きっと」

「そうかもな。でも、そうじゃないかもしれない」

僕は半分、彼女が何らかの抑圧を受けてストレートに怒りをぶつけられないんだと確信していた。


志乃は頭を僕の肩に擦り寄せた。
例の花の匂いはしない。

「続きしたいけど、気が抜けちゃった」

「俺はその、続きしたいの一言でがんばれる気がするが」

「うわー、ヘンタイだー」

志乃は階段を駆け上がった。

「そうだ。今日のおべんと。食べて」

元いた場所に起きっぱなしの鞄から、包みを出して僕に渡す。

「よく起きて作れるな。サンキュー」

志乃は、僕が鞄に弁当をしまうのを見ながらそわそわしていた。

「なんだよ」

「べーつにー」

「何か悪いことを考えてるな」

「そんなことはない。帰り、覚えといてよ」

――そのかわり、明日はいっぱいいちゃいちゃする。

「覚えてるよ! 覚えてるとも! 予告ニャンニャン!」

(ああ……ニャンニャンは我ながらキモいわ……)

言ったそばから一人で反省する。
志乃はうなだれる僕の隙をついて一瞬だけ唇を合わせると

「うわー、ヘンタイだー」

とはやし立てるように言って教室に走っていった。


―――――放課後・志乃の部屋―――――

彼女は鞄を机の上に置いて、ベッドにうつぶせに倒れ込んだ。
僕はどうしていいかわからないので、机の上を見る。
彼女のノートパソコンのすぐ横に、数日前に買った丸いサボテンがあった。

(結構いいとこに陣取ってるな)

鉢には不透性のマーカーで「サボ子」と書いてある。
ネーミングセンスはともかく、気に入ってくれてるらしい。

志乃が頭を動かして、部屋の真ん中で突っ立っている僕を見た。
寝返りを打ってベッドの真ん中から壁際へ寄る。
そして半分開いたスペースを、ぽんぽんと叩いた。

ぽんぽん。

(来いってか)


「来て」

僕はおとなしく彼女の横に寝そべった。

「今日は妙に素直じゃないか」

志乃はまた寝返りを打って、僕と向き合うように体の向きを変えた。

(あれ、無視か)



「抱いて」



絶句した。
その一言が僕の理性を蹂躙する。
自制心だか思考回路だか、そんなものは一瞬で振り切れた。

僕はあまり自慢じゃない瞬発力をフルに発揮して、
彼女が声を上げる間もなく、その体を抱きすくめて口を吸っていた。

驚いたのか、志乃は僕の下でもがくけど僕はお構いなしに彼女の口内を犯す。


しばらくそうしたところで、僕の理性が申し訳なさそうに帰ってくる。

(おかしいな、暴れないなんて)

さすがにまずかったかと、一旦体を離してみる。
志乃は惚けた顔で荒く呼吸をしていた。
それに合わせて胸や腹が上下するのが制服越しにわかる。

(解禁したい……! でもまだ三日目……!)

僕はくだらない意地と戦っていた。

「志乃、お前、大丈夫か」

こんな状況でも、ここ数日彼女から花の香りがしない。
あれは、わずかな僕の経験則では「食欲」の合図みたいなものだった。

「腹減ってないか?」

勿論、この場合の彼女の養分は精液だ。

「……まだ……平気……」

あの香りを発することもできないくらい消耗しているのかもしれない。
もしそうなら、僕はまた馬鹿をやったことになる。

「大丈夫……疲れてるだけ」

彼女は半分だけ目を開いた。
「気持ちが、つかれてるだけ」と言い直して、また目を閉じた。

よく見れば、確かに髪や肌はまだまだ異常に艶がある。

(ガソリン切れじゃないのは本当か……)

「びっくりした……」

「すまん、テンションが上がりすぎて」

「ばかばかー」

「俺はただ、エロいことがしたかったんだ」

「どストレートだなぁ」

「昨日から期待で胸(と股間)が膨らんでな」

(とりあえず「抱いて」の一言はおかずランキング殿堂入りだな)

「眠いからだっこしてっていうつもりだったのに」

「省略しすぎだろ、それは」

この場合、過失相殺が適用されるはずだ。
彼女は勝手に僕の腕を枕にすると、寝る準備に入ってしまった。

「志乃ー寝るなー」

「やだねむい」

普段ならここらで引き下がるところだが、今日の僕はしつこかった。

「じゃあ寝てていいからいろいろと触らせてください」

「うわキモ」

志乃が目を開けた。蔑みが浮かんでいる。

(そのまま罵りながらしごいてくれないかな)

(いや、だめだ。俺から禁止を言い渡したのに早すぎる!却下!)

「そんなにしたい?」

僕が葛藤しているのを察したらしい。

「服や下着には手を入れないんで触らせてくださいお願いします」

我ながら必死だった。

「うっ……」

彼女は明らかに引いていた。

「嫌なら無理にとは言わない。お前が嫌ならしない」

「い、嫌じゃないけど……」

彼女は下を向いた。
少しの間、何か考えてベッドから出ると、照明のひもを引っ張って電気を消した。
そのまま部屋の真ん中でごそごそする。
床に何か落ちる音がした。

「見られるの恥ずかしいから」

と言いながら戻ってくる。

「脱がさないのにー」

この部屋のカーテンはいくらか遮光する生地らしいが、これくらいなら目が慣れそうだ。

「気分の問題」

「えっ、いいの?ほんとにいいの?」

思わず声が弾んでしまう。
彼女が僕の手を探って、自分に触れさせる。

(この丸み、柔らかさ、弾力……!)

「ふへへ。解禁したったwwwww」

「俺、死んでもいいわ」

「感激しすぎだからww」

「……いや、やっぱ死ねない。
 俺はおっぱいの神様に恥じないように精一杯生きなければならない」

「それじゃ私は寝るから」

「ああ、眠いんだったな」

指に少し力を込めると、志乃の肩がぴくっと震えた。

「ね、寝るんだからね! もう! ほんとだよ!」

「うんうん。おやすみ」

彼女は僕の顔を触って唇を探り当てるとキスをした。

「おやすみのちゅーしたし、もう寝るからね! 寝たよ!」

(絶対起きてるな……)

(これ、触っていいってことだよな)

(だって解禁だもんな! 解禁!)

寝たふりをしている相手にいろいろするのは張り合いがなさそうだけど気にしない。

やってきたチャンスは漏れなく掴む。
それが俺の流儀だ。

(張り切ったものの、どうしたらいいのかな)

僕は考えながら、しっかり手は動かす。

(うーん、片手じゃ収まらんじゃないか。志乃、立派に育って……)

お義姉さんに給料をもらったら、小さく見えるブラでも買ってやろう。
このおっぱいが型くずれするのはいけない。
それを見過ごすなんておっぱいへの冒涜だ。

片腕が枕にされているので、使えるのはもう片方だけだ。

(俺はベストを尽くすぞ)

(こうなった以上、お言葉に甘えて全力で堪能する)

僕は女体の神様に宣誓した。

童貞らしく、どうしていいかわからない。
しかし、志乃には童貞宣言しているので、下手だとか初々しいとかそんなのは臆することもない。
ただ、丁寧に撫で回そうと思った。

とりあえず手のひらを這わせてみる。
志乃がびくっとなったようだけど、寝たと言うのだから寝相だろう。
そういうことにしといてやろう。

手が尻のあたりにきたところで、僕は気づく。

(志乃さん、ケツ出てますがな)

(いや、正確にはスカートがめくれてるだけなんだけど)

(これは一旦スカートを戻してやるべきだろうか)

(それともこのまま尻を包むパンツの生地の感触を楽しむべきだろうか)

(後者だろうな。誰だってそーする。俺もそーする)

ついでに手を伸ばして太腿まで触っておく。
肉質は引き締まっているせいか少し硬いが、筋肉の弾力は健康的でいいと思った。
何よりその皮膚がすべすべで柔らかい。

半端な女より美脚な男はざらにいるが、こればかりは敵わないんじゃないかな。
そうであってほしい。

もう一度、尻に戻ってくる。
冷房がきいているとはいえ、布団をかぶっているせいか汗ばんできている。

(でも布団剥いだらおなか冷えるからな……)

僕は的外れかもしれない気遣いをしながら尻を撫で回す。

(うーん、案外いいものだなぁ)

(やっぱり丸いものは和むようにできてるんだな)

(だってうさぎとかハムスターとか丸いもん)

そんな造形に対する敬意が沸き上がってくる。

こうしている間も、志乃は何度か体をよじろうとしたり、
声が出そうになっているけど、なんとか寝た振りをとおしている。

(変なところで意地っぱりだからなぁ)

このあたりになると、僕も開き直ったもので彼女を仰向けに転がして好き勝手に触りまくっていた。
枕にされている腕は、僕が動きやすいように二の腕に乗った志乃の頭を前腕に持ってきた。

電気を消した後で、志乃が床に落としたのはサラシだったのだろう。
そのへんに気遣いを感じた。
で、僕はその心遣いに感謝しながら乳首をつまんだり転がしたりして弄んでいた。

(うーん、服の上からこの感触はエロい……)

僕のファルスは始めから怒張しっぱなしで、もう痛いくらいだ。

下着の、先端の当たっている部分が湿っている。

(もう帰ったら抜きまくる。明日も平日だけど手淫三昧ですよ)

ここで僕は、ふと思いつく。

(志乃はどうなってるんだろう)

僕の意識は彼女のプライベートな箇所でいっぱいである。
秘密の花園である。

(布の上からだからセーフだよな)

どこまで彼女が僕を野放しにするか、さながらチキンレースである。
僕は意を決して、彼女の下腹部に手をやった。

殴られてもいい。罵倒されてもいい。
それを目の前にして撤退するのは臆病者だ。

(その昔、えらい人は言いました。
 お金を失えば小さなものを失う。
 信頼を失えば大きなものを失う。
 勇気を失えばすべてをうしなう)

僕は開拓者精神に突き動かされていた。

指の腹が彼女の秘所に当たる。
押しつけてみると、湿った音と一緒に湿った感触があった。
そのまま生地がぬるりと滑る。
僕は彼女が濡らしていることに感動した。

(なっ、なにこれ!なんかすごいんだけど!)

淫靡な感触に、思わず息を飲む。
そのまま動かそうとすると、彼女の手が僕の手を押さえた。

「……お、おはよう。よく眠れたかい?」

「……調子こきすぎ」

顔はよく見えないが、涙声だった。
彼女の負けず嫌いな性質につけこんで、いじめすぎたかもしれない。

「すいませんでした」

「もう。ばか」

「だけどとてもよいものでした」

「……」

「ぼくは、もっとしたいなぁとおもいました」

「お前もう帰れよ」

彼女はわざと粗野な口調で言った。
僕は満足しきっていたので、そんなところも可愛いなあ、と余裕丸だしで思いました。

「志乃、まだ落ち込んでる?」

「わかんない」

本当はお手洗いを拝借して、一旦すっきりしたいところだけど我慢する。


(帰るまでは生殺しでいよう……)

「一緒に寝るか」

「……」

「警戒してるな」

「しない方がおかしい」

「俺は今、満ち足りています」

「ほう」

「だから志乃にも幸せを分けてやりたい」

「ほうほほう」

「ほら、今日はもう変なことしないからおいで」

「ほんと?」

「不安だったり納得いかないことがあるんだろ」

言うまでもなく、この事件の関係だ。

「少しの間くらい、誰にも気遣わずに眠った方がいい」

「……うん」

彼女は近くに置いていた携帯を拾って、何か操作している。

「なにしてんの」

「マナー解除とアラームセットしてるの。
 ファミリーと出くわしたらたいへんだ」

「おおう。そりゃたいへんだ」


――――――――――

僕は目が冴えて仕方なかったが、志乃はよく眠れたようだった。
彼女が寝返りを打つものだから、途中から腕枕の意味はなくなったけど、
たぶん志乃には僕が一緒に布団に入っているのが大事なんだろうと思ったので、
元に戻したりせずに放っておいた。

「……ん」

「まだ寝てていいよ」

「うん……」

志乃は布団を頭までかぶってもぞもぞしたが、また顔を出した。

「ねえ、何か話そ」

「何の話?」

「どうでもいい話」

「そうだな。事件のことで頭いっぱいだったもんな」

「うん。たのしいこと考えたいんだけど、なんか悪い気がして」

「佐伯さんに悪いって思ってるんだろ」

志乃は黙ったままうなずいた。

「あんな兄貴がいて、そのせいで苦労してる境遇は気の毒だと思うけど、
 彼女はまるっきり不幸じゃないと思うよ」

ちゃんと社交性があって、自分を持っていた。

「佐伯さんにも、ちゃんと楽しいことはあるよ」

「そうだよね」

「勝手に不幸だって決めつけたら、こっちまで幸せになっちゃいけないって思いこむ元になるぞ」

「それは、優しいのとは違うね」

「うん。だから志乃はいつもと同じでいいよ」

志乃はしばらく黙っていた。
何か考えているなら、そのままにしておこうと思った。

何か振り切るように僕に抱きつくと、

「ありがと」

と笑いながら言った。

――――――――――

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